【殿、利息でござる!】 と 原作【穀田屋十三郎】感想

2018-10-14amazon primeで鑑賞

殿、利息でござる!

阿部サダヲ主演の時代劇ドラマ。インパクトのあるカバーからは測れない、滋味にあふれたとても佳い映画でした。

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映画『殿、利息でござる!』

<あらすじ> 民に無理を強いることで財政をくりまわしていた仙台藩。ことに伝馬役(てんまやく)を課せられている吉岡宿では、食い詰めて夜逃げするものが増えている。この悪い仕組みにはまった宿をなんとかしたいと願う十三郎は、地域の知恵者:菅原屋からある斬新な発想を聞き、「これしかない!」とその実現に奔走する。しかしそれは『藩に金を貸し、その利息を頂戴して宿を潤す』という、上に漏れれば危険極まりないものでーー。

このお話は実話を元にしたものであるというところにまず驚きます。原作となった本を確認すると、物語を盛り上げるためにいろいろな部分が事実と異なる脚色をされたり端折られたりしていますが、肝心な部分はそのままです。つまり、『吉岡宿の全体を救うため、庶民9人が私財を投げうち金を集め、非常に粘り強く藩相手に交渉して金を貸すことに成功し、利息を得てみなにそれを配分するという大願を成就させた』、という筋です。たいへん清々しい映画です。

たしかな存在感

この映画はなんといっても役者の方々のさりげない、生き生きとした演技がとっても素晴らしいと思いました。印象的な表情をする役者さんばかりで、とても気持ちに訴えてくるものがありました。

先代の浅野屋甚内を演じた山崎努さんは特に好きでした。映画の中にそれほど出てくるわけではないけれど、ひとつひとつのシーンでの表情が、実際にこういう人が生きていたんだという確かな感覚を与えてくれる気がしました。ひとのうわさになろうとも、黙々と淡々と…という甚内の控えめな篤い人柄が、山崎さんのたたずまいからとても伝わってくるのです。

その子・当代の甚内を演じた妻夫木聡さんは、以前からなんてうまい役者さんだろうと感じていましたが、今作でもそう思わせてくれました。最初は先代と同じく金の亡者のようでありつつもなんとなくそこにいないような、冷たいというより…こころもとないような印象を受ける…物語が進んでもずっとそうだ、なぜなんだろうと、不思議に思っていたのです。しかし最後の方でその謎が解けました。最初から甚内はそうで、だから最初からあの感じがしたんだ、それをあれ(ネタバレ反転:どこを見ているかわからない、光をあまり感じない目の表情)で表現していたんだと理解できた時、巧みさになんというか…ショックを受けました。それは甚内が悟られまいとしてそうしていたからでしょう、わずかに感じ取ることのできる違和感でしたが、理由を知ってから見返すと気づかざるを得ない完璧な塩梅です。そして父の教えを信じその願いを継いでそのためだけに生きる、というこれもまた清廉な人柄がよく現れた笑顔に、山崎さんと同じく甚内の実在を感じました。

萱場を演じた松田龍平さんも演技に定評がありますが、今作も素晴らしかったです。取りつく島のない怜悧なお役人をちょっとしたしぐさ(あの歩き方!)や物の言い方で自然に表現していました。それゆえににくったらしーと思わなくもなかったのですが、代官とのちょっとコミカルな攻防など楽しかったです。

瑛太さんは演じるたびに全く違うひとになるので、どうなってるんだろう、と思います。一蔵どんを見てから上田のCMを見ると絶対同じ人とは思えない…。今作でも知恵があるがおそれの気持ちもあり、しかし間違っていることがあると黙っておらず目上の者にでも意見をする、頼りになる菅原屋をとても魅力的に演じています。いろいろな面のあるキャラなので、いっそう生き生きと感じられます。映画の中ではかなりコミカルな味付けにもなっていて、キーパーソンだなと思いました。

主演の阿部サダヲさんは、十三郎のような人物がほんとうにぴったりしますね。まっすぐにがんばって、一生懸命で、いつのまにかみんなを動かしていく魅力ある人物。今作の十三郎もそんな人で、まわりのみんなが彼の熱量に説得されていくのも納得するし、もし自分にこんな企てを持ってきてくれたらやっぱり味方してしまうだろうなと思うのです。阿部サダヲさんは役と自分自身を重ね合わせるのがうまいのかなあと思います。(そして見た目も十三郎に似ていると自分で感じたらしい…映画ナタリーhttps://natalie.mu/eiga/news/185730)

飲み屋の女将の竹内結子さんや人足役の方々、お代官もとても魅力的で大好きでした。ケチなお仲間も個性がよくでていて、いろいろなひとがこれに出資したんだということも実感でき、感慨深かったです。

そういえば藩主役で羽生結弦くんが出ていました。堂々とした雰囲気がとても良かったです。

『冥加訓』、そして父と子

陽明学という江戸時代に学ばれていた学問は、歴史の教科書などで見ることはあっても、実際にそれがどのような教えであったのかは知りませんでした。この映画の中に出てくる『冥加訓』はその陽明学の流れを汲んだもので、備前の無名の医者が書いた本だそうです。

「決して恩に着せず、報いを求める事無く、行うべき事を行いたもうなり。人も万事天の行いに則りて求めるべきなり。」

この冥加訓が仙台藩吉岡宿の商家の教えとしてだいじにされていたことはすこし不思議な気もしますが、この一文を読んだだけで、この本を買い家訓のようにして子に教えた先代の甚内の気持ちがよく理解できます。(実際にほしくて探しましたが岩波文庫や講談社学術文庫でも出てませんでした。ネットに全文が載っていますがくずし字が読めないので、そこから勉強しようと思います)

映画の中では、幼い日の十三郎と当代甚内が父に座学でこれを学んでいるエピソードがあります。父が読み上げるのですが、十三郎は飽きて庭に出てしまう。弟はじっと聞き入っている。

十三郎は長子でありながら穀田屋に養子に出されました。商いの才があり酒屋と質屋で財を増やしている様子の弟を見て、自分はできが悪いので養子に出されたのではないだろうかと考えています。このあたりの事情がこの映画をさらに盛り上げる仕掛けとなっています。このことが知れた時に、実の母に力強く言われたことも、きっと十三郎にとって生まれかわるような心地のことだったろう…と思います。この大きな企てを通して実の父のほんとうの想いやあたたかさを知り、実の母から力強く言われたあの言葉を聞いたことが、十三郎にとってはなによりの報いだったろうと思い、感じ入りました。

まとめ

ときどき、家で映画を見ているとあと何分だろうと思ってスライダーで時間を見てしまうことがあるのですが、この映画に関しては最後までずっと気が散らず、面白く集中して見ることができました。夢中になりました。そして見終わった後は爽快な気分になれて、ほんとうにいい映画だと思います。カバーや『コメディ』っていうジャンルから想像するのとは違った、滋味深い世界が広がっていました。ラストシーンも本当に素晴らしいです。

殿、利息でござる! 2016年

原作「無私の日本人」穀田屋十三郎

原作は磯田道史著の「無私の日本人」に収録されている「穀田屋十三郎」です。「国恩記」というこの口外厳禁の企ての詳細を記した古文書を元に、この時代の仕組みや貨幣価値、経済観やちょっとした文化などもうまく盛り込まれ、しかもそれらが後世にどのように影響したかまで綴られている作品で、あの時代に彼らの成し遂げたあの企てがどのような意味を持つか、彼らのどの辺りが特異でどの辺りが一般的だったか、とてもよく理解できます。

ずいぶんまえに買ったまま書庫に置いていましたが、映画を見てからこの本が原作と知り、読みました。

これを読むと、映画とは結構違っている点があることに気づきます。当代・甚内の設定や訴え先、金の都合先などなど…。またことさら私を感動させた、十三郎と菅原屋、そして肝煎の3人が三浦屋に行く際にした覚悟も映画にはでてきません。

しかし、映画としてはそれでいいのかも知れません。監督のお話などを読むと、これを時代劇として作った意識はあまりなく、楽しく見てもらいたいと思って作った作品だったそうで、この映画は本当にそのとおりにできています。それに大筋では実話通りで、大事なことは伝わると思うからです。また、そのままではないといっても、原作のエッセンスは十分映画にも生かされていました。役人に対し「はしたない」という言葉をつぶやいたり、大肝煎・千坂のこころの揺れをああいうふうに表現していたのも良かったですし、菅原屋とその妻の様子もさりげなく描かれていました。そういう印象的な部分や鍵となる言葉は自然に取り入れられていて、脚本家の方も素晴らしいです。こんなふうに出来上がっていなければ、こんなにも多くの人に見てもらうこともなかったかも知れないとも思いました。

でも、映画を見て面白かったなら、是非この原作を読んで欲しいと思います。江戸時代の地方の庶民の心根の素晴らしさがより深く描かれていると思ったからです。庶民ばかりでなく代官の橋本や勘定方の役人、そして萱場のことも、とても丁寧に描かれていて胸打たれたり、興味深かったりして、この話を知ることができて本当に良かったと感じました。また、映画の中では驚いたシーン、「人足が歴史から話を引いて早坂屋を説得する」は、実際には寺男が説得したもので、発言が全部載っているのもおもしろかったです。

なお、映画の中でも一時はほぼ身代を潰してしまったように描かれていた浅野屋ですが、この大願が成った後も生涯無私に徹した様子がつづられています。店を潰す覚悟を持ってか、返せないとわかっている人々にも金を貸し続け(これが転じて殿の御成のきっかけになったという)、飢饉となれば米や栗を配り歩いたそうです。映画の中でちらりと住職が漏らした「匿名でさらに多くの浄財を納めている方」というのも浅野屋甚内でした。

こんな人たちが存在したことを知ることができて、とても嬉しかったです。

この本のあとがきも素晴らしかったです。泣きました。

 

この映画を見ている時、こどものときに見た「まんが日本昔ばなし」の特に印象に残っているお話に似てる気して、ソワソワしました。完全に覚えてはいないけれど。。「けちって言われてたおじいさんが亡くなってから家を片付けると、お金がいっぱい詰まったツボが見つかりました。それはおじいさんがいつかみんなが使う橋をかけかえたいと思ってコツコツと貯めていたものでした。みんなは感謝してそのお金で橋をかけかえました。」というようなものでした。番組のデータベースを見つけたのでキイワードを入れて探して見ると、ありました! 『けちんぼ六さん』という話でした。これも実話で、石神井川の下頭橋のことらしいです。だいたいそのままおぼえていた自分にびっくりです。私は子どもの頃からこういう人がだい好きなんだなあと思いました。。