映画『パディントン』≫紳士なクマ、そしてストレンジャー

パディントン 洋画

監督 ポール・キング
主演 ベン・ウィショー(声の出演)、ニコール・キッドマン、ヒュー・ボネヴィル

スポンサーリンク
スポンサーリンク

映画『パディントン』

パディントン あらすじ

おじさんとおばさんと仲良く暮らしていた南米・ペルーで災害が起こり、たったひとりでイギリスに移り住むことになった小さな紳士。昔やってきた探検家にもらったレコードで勉強した通り、上品な挨拶をして会話を試みるが、誰も相手にしてくれない。彼は紳士ではあるけれど、クマだから。

 

『くまのパディントン』という本をどのくらいの人が読んだことがあるのでしょうか。

私はこどものころから本好きでしたが、この本が対象にする年頃には、なぜか”世界の名作”みたいなものを避けていました。今になって、読んでおけば良かったとすごく思うのですが、とにかくそういうおかしなこどもだったせいで『くまのパディントン』も読んでいません。だから、この映画が原作とどう違うのかなどはわからないままで感想を書いていることをあらかじめご了承ください。。

話せるクマ

パディントン

最初のペルーのジャングルでの暮らしが素敵すぎて、それをずっと観ていたいような気がしました。大きな木に蜂の巣のような丸い住処がぶらさがっていて、木の吊り橋、マーマレードを作るためのおもしろい仕組み。夜はみんなでイギリス式の会話を教えるレコードを聴いている。

そう、彼らはクマですが、なんと英語が話せるのでした。

それにしても、この世界ではクマについて誰も騒いだりしないのはなぜなのでしょう。107cmのちいさなけむくじゃらと駅の構内ですれちがっても、みんな無関心です。クマがとっても丁寧に挨拶をしてきても、無反応。みんなのスルースキル高すぎませんか…? それでいて、他にことばを話す動物がいるわけでもないのです。

この映画はちいさなクマの冒険を描いたファンタジーです。でもその奇妙な様子を見ていて、まったく個人的な感想なのですが、私には、異文化交流について描いてるように思えてきました。クマは、ストレンジャーの暗喩に思えてきたのです。

まったく新しい社会に入ろうとして、そこでの常識がわからず意図せず失敗してしまい、それがいけないことだったとわかったから謝りたいと思っても伝えるすべもなく、だから当然理解もしてもらえない。

上品な挨拶は練習したからできているけれど、人間の常識には疎く、人間がわかるように説明する言葉を知らないパディントン。それがうまく作用すればスリを捕まえたクマ警官と称えられるけれど、家に侵入してきたクライドのことを的確に説明できなかった時は、嘘つきの信用ならないクマと思われてしまう。

パディントン

でもこんなふうに感じるのは、きっと私自身がよそものであるときに、そういうことをすごく恐れているからかなあと思います。そしてブラウンさんと夫人がああいうふうに反応してしまうのも無理はないと思うのも、自分の中にもよそものを信じきれない部分があるのだろうと。

(ほんとうは逆で、異分子を恐れてできれば避けたいと思っているから、自分が異分子であるときにそう思われているかもしれないと考え、周囲の反応に敏感なのでしょう。)

でもブラウン家から出て行った先で、見知らぬパディントンに親切な人(宮殿の衛兵)もいました。パディントンのおじさんとおなじ備えをしてて、しかも無尽蔵に出てきて面白かったです。すごく好きなシーン。それでも入れ替わった別の衛兵はパディントンを追い出してしまうのですが…。なにかそんなことも、現実的だなあと思いました。親切な人も、そうでない人もいるんだと。

……とはいえ、映画の中ではこのことはそれほど酷い描かれ方はしていません。たぶんふつうに観ていて傷ついたりすることはないと思います。この映画はとにかくとても優しい世界です。児童文学が原作なので、ピュアな物語だろうと想像はしていましたが、これほどチャーミングでいじわるさのかけらもないお話だとは思ってなかったので、嬉しい驚きでした。

愛すべき変わり者たち

パディントン

パディントンが寄宿する個性的なブラウン家の人たちはみんな変わり者で、愛すべきお茶目さがあります。みんな大好きです。だから、この家を出ていかなければとパディントンが考えた時のつらさがすごく胸に迫ってきました。

ブラウン夫人は最初からパディントンを受け入れて愛情深く接してくれます。挿絵画家で、想像力豊かでとてもやさしい目をしています。そう、この演じているサリー・ホーキンスの表情の魅力が、この映画の中でとっても存在感があると感じました。なにかとっても好きな顔です。

反対に夫のブラウンさんは彼を家に連れてくることにはあんまり賛成していません。リスク管理を仕事にしている彼は、危ないことをするのが大嫌い。活発な息子のジョナサンにも度々細かく注意をしています。でも、パディントンを本格的に排除しようとしたり、失敗したあとでつらくあたることもないところが、本質的にはやさしい大人なんだなあと思えて安心して観ていられます。演じているヒュー・ボネヴィルの厳格そうだけど暖かそうでどこかお茶目な風体が、ブラウンさんのキャラクターにとても合ってました。

パディントン

ジョナサンは好奇心が旺盛ですごい発明家です。最初からパディントンのことが好きみたい。もしかしたら、原作ではもっとなかよしなのかもしれないなあと思いましたが、どうなのでしょう。映画の中ではふたりがいっしょに何かをするエピソードはほとんどありません。頓智がきいたジョナサンと豆台風のパディントンが、二人だけで何かしたらどんなに楽しいかなあ、と想像します。

ジョナサンの姉のジュディは、パディントンのことを「キモい」と嫌っています。起業するのが夢で、いまは中国語を勉強している才女です。彼女の言語能力のおかげで最後は助かるのですが、起業するより学者になったらいいんじゃないか、と思いました。演じるマデリン・ハリスはとっても綺麗なお顔しています。

そして、同居するバードおばさんは家族の中でも一番くらいのものすごい変わり者で、とっても面白いキャラクターです。掃除機コレクターで片付けが好き。パディントンに対してなんの興味もなさそうですが、それが逆に「いて当然」みたいに思ってるような気がして、彼女の関わり方はとてもいいなと思いました。最後の作戦での彼女は本当にかっこいい!

それからお隣のカリー氏がまた好きなキャラクターです。クマなんて…ってすごく否定的で見張ったりもして、パディントン誘拐に関わったりもするのですが…。お金がないわけじゃなさそうなのにどうしようもなくケチで、好きな女性にプレゼントするものがひどすぎてとっても面白いです。さらったパディントンをどうするつもりか知って「残酷だ」とはっきり批判して珍妙な電話をかけたシーンですっかり好きになりました。演じているピーター・カパルディが好きな雰囲気なのでそれも大きいかもしれません。

特に好きなシーン

パディントン

パディントンがコートをもらうシーンはこころがあったかくなるいいシーンだと思います。それはジョナサンのものだったコートで、その前はジュディの、その前はブラウンさんのものでした。家族の一員って感じがして、じーんとします。そしてこうして物を大切にするのがいかにもイギリスっぽくて、憧れます。

ブラウンさんとパディントンが二人で探検家のことを調べにいく場面も本当に楽しいです。石頭でこうるさいブラウンさんが若い時にはワイルドだったというバードおばさんの話が本当だったんだなあと思う展開です。ブラウンさんも面白いけど、窓口(?)の男の人も面白かった。逃げる時にかける言葉で、最後までブラウンさんに魅力を感じてたんだなあと思って笑いました。

その後に古いフィルムをみんなで見るシーンがあるのですが、そこも好きです。昔の映像だけど、懐かしいペルーの家と、若いおじさんとおばさんが写っています。そこにゆっくりと近づいていくパディントン。目を閉じて、匂いもかげそうで…。モノクロが総天然色になって、その景色の中に心の中で溶け込んでいる表現がとっても綺麗でした。ここはほんとうに短いシーンですが、強く印象に残っています。あっけらかんとしたパディントンがほんのすこしだけ見せたちょっとウェットな部分だったからかもしれません。

それから、パディントンがブラウン家のことをおばさんへの手紙を書くときに、それぞれの部屋とその主がドールハウスのように描写されるのですが、そこのシーンがすごく好きです。持ち主と同じくらい個性的な部屋の様子が面白いです。特にこどもたちの部屋はすごいです。

ハラハラすることもあるにはあるのですが、それでもずっとのんきに楽しく観ることのできる映画です。素晴らしい技術で生き生きと動き回るパディントンの活躍と、探していた『家』だけじゃなく、それ以上のいいものを見つける物語に、すなおにいい気持ちになります。吹き替えの方の役者さんも素晴らしいので、またそちらも観てみたいと思います。原作も読んでみたくなりました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました