スタマイイベント：銀河鉄道の終着駅にて

さて、ここからはすこしネタバレ＋ときどき賢治の『銀河鉄道の夜』にも触れるなが〜い感想です。

よろしければお付き合いください。。🙇‍♂️

烏瓜

高校生の豪さんがいなくなったあと、いつのまにか目の前に座っていた耀さん。

窓の外に九条さんには見えない「烏瓜の花」を見て、『誰が』と言わずに、独り言のように話す内容が印象に残りました。

これは本編とリンクしている内容ですね。。。

この知人は、伊田さんでしょう。

烏瓜は夜に咲き、夜明け前には萎んでしまう不思議な姿の花です。

そんな時間に他のいつよりもクリアに考えごとをする人・・・ということそのものが、私にとっては閉塞感を感じさせる。。

彼の影響が強くて、正義と悪の天秤や人間の認識そのものについて、曰く言い難い虚無感に囚われそうになっていた耀さんですが・・・

そういう「大人の事情」的なものにもまっすぐ挑み続ける未熟な蕾を思って、こんなに優しい表情になるのでした。。

これは九条さんの夢ですが、この短い時間に耀さんが語ったことはまったく架空でもなくて、夢ってやっぱり不思議だなーなどと、スタマイ自体が『物語』なのも忘れて感じ入ったりしていました(●´◒`●)

ちなみに、『銀河鉄道の夜』では実が出てきます。青い火を入れてランタンにして、川に流すのです。

『鷺』のダジャレ？、実は言わんとすることがよくわからなかったのですが💦、”鷺”も『銀河鉄道の夜』に出てきます。”サギ”的な食べ物として…！w

自己犠牲

次にハルくんと孝太郎さんがやって来て、先日現実に玲ちゃんから聞いた『由井孝太郎特製栄養牛乳』混入事件の話に絡めて、『信頼』の話をします。

揉める二人は九条さんに意見を求めます。

もし新堂さんが自分の紅茶に『新堂清志特製栄養牛乳』を黙って混ぜても、信頼しているから許す、しかし自分だったら、信頼してくれる相手の幸せを、決して侵さない行動をするーー。

他利的な九条さんに無欲さを感じるマトリの二人ですが、九条さんは

と答えるのでした。

九条さんは、賢治の言う『ほんとうのしあわせ』は自己犠牲であるとする一般的な解釈に倣い、自分も自分自身を投げ出すことで大事な存在を守りたいと考えているようです。

周りの大切な人が幸せになってはじめて、自分も幸せーーそういう気持ちからの行動なので、自己犠牲もまた利己的であり、自分の幸福への執着である、ということなのでしょう。

・・・このへんウロボロスというか・・・。

受け取った人の考え方次第かもと思いつつ・・・、自分の中で厳然としてこういう考えを持っている高潔な人ってとても好きです。そしてとても九条さんらしい。

外から見た九条家の印象を気にかける気持ち。

こういうのも、九条さん視点ならではで新鮮でした。

兄弟区

このエピソードは、オリジナルだと思います。

ここではますます『夢』の不可思議さを感じます。

まず九条さんが知り得ないはずの「この区でのハルくんの息苦しさ」の表現。

そして何より、降車した先で展開される会話が。。。

こう忠告を受けて、さっきいなくなった豪さんが気にかかりつつも、惹かれるものに抗えず降車した九条さん。

ホームのベンチに座る影を見つけなんとなく近づくと、その気配に顔を跳ね上げたその人は・・・司さんでした。

司さんは、この駅のことを教えてくれます。

でも「大丈夫ですよ。あなたはまだ手遅れではありません」

あなた「は」。

司さん。。。（もうここで、私はグッと喉の方にきてしまっていました）。

そして豪さん本編の予言のようなことを語る司さん。九条さんは敏感に、自分たちの未来に対する警告だと感じるのでした。

ほどなく列車に戻るよう促す司さんですが、話足りない九条さんは一緒に乗ろうと提案します。けれども、弟とはぐれたという司さんは断ります。（ああ・・・）

そして・・・

爽やかな笑顔が切ない・・・

「同じ列車には乗れない」と言った言葉を聞いて、弟を諦めるのか、と思わず聞いてしまう九条さんでしたが、

九条さんには、この言葉の意味がほんとうには伝わらなかったと思いますが、私には痛いほどです。（きっと全国のマトリちゃんにも伝わったよね⁉）

ここで待っていれば、きっといつか・・・と、ずっと長いこと座り込んで待っていたのでしょう。

結果、やってきたのは九条さんで。

でもだからこそ・・・

・・・お天道様の下を・・・・(´；ω；｀)ﾌﾞﾜｯ

司さんのこの優しい微笑みに、こらえきれず泣いた。。。

九条さんは司さんに弟がいるかどうかさえ知らないのに、こんなに深い部分をわかちあったんですね。。

夢。。。

すごい。

そして。

弟の名前を聞いたはずなのに、次の瞬間には車内に戻っていた九条さんには、どうしてもそれが思い出せないのでした。。

・・・そしてこちら、「司さんが最高に好き♡」そんな記事です(´>///<｀)

⭐️ 参考記事：朝霧司さん。

さそりの火

「さそりの火」の挿話について、新堂さんが宏弥くんに説明するシーンがあります。

それを聞いた宏弥くんは、「死ぬ寸前で心入れ替えたから、悪者からヒーローになった」と受け止めましたが、新堂さんは「くだらない陶酔」と切り捨てます。

ジョバンニの一日の賃金の5000倍・・・

「自己犠牲への陶酔」とはどういうことか、新堂さんの考えを尋ねる九条さん。

・・・ああ・・・、新堂さんならそう考えるって、すごくわかります。

新堂さんの過去はまだ詳らかになっていませんが、人間の穢とか、自分自身の挫折とか、なにかそういうものを独力で乗り越えて。。。

何度も熱せられ冷やされ、叩かれて鍛えられたひとつの玉鋼のような人、だと私は思っているんです。

もともと健全で、経験を経てもそれが曲がらず、逆に却って強靭になったまっすぐな精神の持ち主なんだと信じています。

だから、新堂さんはまさに今際の際になってから今までの宗旨を翻して、悪く言えば「センチになる」ような精神構造は好まないだろう、と。。

それなら、九条さんはどう考えているのかというと・・・

九条さんがこう考えるのも、すごく理解できます。

九条さんの世界では、「優しさ」や「思い遣り」は、少なくとも本人にとっては、裏のないとても清らかなものなんだと思います。

「万人」ではなく、「自分が幸せになって欲しい者」と限定している点に、九条家という環境に影響されたものを少々感じます* が、九条さんも、新堂さんとは違う形の強さや健全さを持っているんですよね。

* 九条家という隔離的な環境に特殊な体質で生まれついた彼は、新堂さんとは違う種類の人間の裏側を体感しながら育ってきたでしょうし、無制限に愛情をかけられない、かけてはいけない、また特にそういう個人的な柔らかい領域のことに関して、それを測れるほど『外』を知らない部分があるんじゃないか…と考えています。それでも今これだけ愛情深い人柄であることはまったくの奇跡ですよね。。。DAISUKI

立場上外部とのつながりも薄く、長く生きられないかもしれないと考えながら『銀河鉄道の夜』を読んでいた九条さんが、せめて周りの好ましい人の役に立って生を終えたいと願うことは、絵空事で自己犠牲に酔うのとはまったく意味合いが違うと思います。

（ちなみに、賢治も22歳頃、あるきっかけから自分は長くは生きないとの自覚を持つようになります）

それを聞いての宏弥くんのこの言葉が、なんかすごくいいな！って思いました。

「九条さんすでに、俺にとっては火になったヒーローさそりです」

これが明晰夢であると感じている九条さんは、この宏弥くんは自分の意識の投影だから好ましいことを言ってくれるのだと思う一方で、現実でも同じことを言うだろう、と微笑むのでした。。確かな信頼♡

リンドウ

そして大人になった豪さんが現れて例のカムパネルラのセリフを言い、自分もジョバンニのセリフを言いたくないのに言いかけたところで・・・、玲ちゃんが現れて、九条さんの銀河鉄道の最後は、物語とは違うものになりました。

そして九条さんは自分たちの未来が、予定された悲劇ではない形に書き換えられるチャンスがあることに気づいたのです。

夢から醒めた九条さんの枕元には、夢の最初に高校生の豪さんと見たのと同じ花がありました。

夢の中では、まだあどけない豪さんからこんな花言葉を告げられていた九条さんですが・・・

現実の豪さんが教えてくれた花言葉は、優しい優しいものでした。。

ところで、紫のりんどうの花は、『銀河鉄道の夜』にも出てきます。「たくさんのきいろな底をもったりんどうの花のコップ」という表現がすごく綺麗です。賢治の表現は、どれも独特なのに鮮明でふしぎ・・・(●´◒`●)

玲ちゃんの「本当の幸せ」

夢に出てきた玲ちゃんに聞いてみたかった九条さんは、現実の玲ちゃんが「さそりの火」を、「本当の幸せ」をどう解釈しているか知りたいと思いました。

答えは読み手の数だけあるけれど、個人的にはさそりやカムパネルラの行動を「本当の幸せ」と定義したくない、と答える玲ちゃん。「 “死” という “喪失” を幸せと絡めることが難しいんです」

誰かが犠牲になってしか達成できない解決策ではなく、誰も犠牲にならないことが「本当の幸せ」の最低条件、と。。

それを聞いた九条さんは「綺麗事だ」と思うのですが、

「彼女の心は、綺麗なのだ。」と、言い直すんです。

言い直してくれたんです。

私はここで大号泣。。。

なぜそんなに琴線に触れたのかは、ちょっと個人的すぎるのでここでは書きませんが。。

ひとしきり泣きました。

（そして九条さんを好きな気持ちが高まりすぎて、ガチャでお迎えできなかった悲しみは、いまだに癒えておりません。。。）

そしてこのイベントストーリーも終わります。

玲ちゃんの考えは、すでに消失が存在している自分の世界ではどうしようもない綺麗事だとわかっていても、それが自己犠牲の上になら成立するものと考える傲慢さを見つめ直すことで、想像もつかないような「本当の幸せ」が見つけられるかも知れない・・・という九条さんのモノローグで締めくくられます。

九条さんにとっての「本当の幸せ」が、自分をも含むものになるといいですよね。。

宏弥くんほどストレートに伝えてくれる人はそんなにいないかもしれないけど、九条さんが自分を犠牲にしても幸せにしたいと思う相手こそ、九条さんに対して同じように思っているわけですから、自分のことを疎かにしないことが、結局はみんなのしあわせにもつながっていくと思うんです。

そこは、新堂さんみたいにしがみついて、犠牲という選択肢は捨ててもらえたら・・・と思う次第です。

その他

最初に乗り合わせた郁人さんは九条さんの切符を確認しようとしますが、九条さんはポケットに入れていたなんだかわからない紙を、代わりに郁人さんに渡してしまいます。

それは宏弥くんが書いた『九条さん顔面クッキー』の設計図でした(●´◒`●)

これも『銀河鉄道の夜』で、ジョバンニが切符を持っていないと焦って、ポケットに入っていた四つ折りの紙を出した出来事をなぞっていますね。

また、宏弥くんと言えば現在進行中の本編で明かされつつあるのですが、「神」について経験に基づいた確固たる思いがあるようで。。

ここはぜひとも宏弥くんに、がんばって『銀河鉄道の夜』を読んでほしいです。

きっと他の誰よりも理解できる部分は多いと思うんですよね。。そして感想を聞きたいです。

306番も、宏弥くんならきっとそらで歌える。。。

『銀河鉄道の夜』

賢治にとっての「さそりの火」やカムパネルラの行動について考えるときには、ただ自分の考えだけで短絡せずに、彼が熱心に信仰した宗教や時代背景、それから科学観についても併せて考える必要があるのかなと思います。

たとえば、

心の中では馬鹿にしている相手から利益を得ること…

人を邪魔に思うこと…

他人を気の毒に感じてなんでもしてあげたいと考えること…

いろいろな気持ちが描かれていますが、それはみんな「恥じる」という感情に近いような気がします。

何に対して？　ただ自分に対して。

そこまで厳しく内省的であること、道徳的であることは、もしかしたら現代の風潮の中では現実感に乏しいと思われてしまうかも知れません。

また、賢治は「全体の幸せ」について常に考えており、それと切り離しては個人の幸せを考えられないのではないか、とも思ったりします。

個人的には。。

「さそりの火」やカムパネルラのような生き方をする動物や人間は、賢治の話には珍しくありませんが、彼らが「自己犠牲」そのものを目指しているとは、私は少しも考えていません。それは結果論にすぎないと昔から感じています。賢治の信仰について理解した上で、現在でもそう思っています。

一方で、ジョバンニが感じる感情の一つ一つは、時代や信仰心に関係なく、誰にでも覚えのあるとても生々しいものではないでしょうか。

九条さんが客観視できないとしても当然のように思えます。少なくとも私もジョバンニと同じ感情を抱いたことがありますし、いまだにそこを諦めきれずにいる部分も残っているからです。

ところで、今回久しぶりに読み返してみて、セロのような声の存在や銀河鉄道そのもの、また歴史観と科学観について、賢治の慧眼にあらためて驚きました。以前は半分もわかりませんでしたが、今になって「このことを言っている！」とすべてはっきりわかり、震えました。

あらためて読み返すきっかけをくれたスタマイに感謝いたします(●´◒`●)