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園田ゆり「きつねくんと先生」🐾 寄り添うこと。

きつねくんと先生 マンガ
マンガ

今日のオススメの漫画は発売されたばかりの「きつねくんと先生」です🦊

これは「あしあと探偵」の園田ゆり先生が、Twitter(とpixiv)で公開している漫画を一冊にまとめた本です。

初め読んだ時からなんとなく宮沢賢治や新美南吉のような世界観を感じる、大好きな物語です。

本当の姿を隠してみんなの中にまぎれてる、でも混じり合ってはいないきつねの仔。

この物語はファンタジーですけど、きつねくんと先生が季節感のある日常を過ごすほのぼのとしたものです。

モフモフ&ハッピー要素が圧倒的に多いです。

なのにときどき、何気ないところでふいに涙が出てしまう。。

ふしぎなやさしい世界は何度読んでも飽きることがありません。

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園田ゆり「きつねくんと先生」


いまは丸くなっているきつねくんの「初期の姿」も好きでした。 。

登場人物とあらすじ

きつねくんと先生「きつねくん」は、小学校3年生を教える「先生」の教室にまぎれこんでいる化け狐です。

「先生」は子供の頃から人間の中に紛れて生きている「人ではないもの」のほんとうの姿が見えてしまうので、新しく赴任した学校の教室に「きつねくん」がいるのがわかったのでした。

先生から見ると化け方が下手でそのまんま狐の「きつねくん」だけれど、こどもたちは化かされているようで特に目立ってもいない様子です。

でも「目立っていない」だけで、「馴染んでいる」ようにも見えないきつねくん。

なぜ学校に来るんだろうと気になった先生は、ある日ついに彼に声をかけます。

「”きつね”くん…?」

おびえたきつねくんは、それから姿を見せなくなって…。

ふたつのさみしさ

最初に読んだときはただ、きつねくんが先生のような人に出会えたことが羨ましいな〜とばかり思いました。

でも一方的な関係ってやっぱりないんだな、って今は感じています。

きつねくん

きつねくんの席は教室の一番後ろ。

「今日も来てる」というところの、きつねくんの手元が可愛いくてはやくも心を撃ち抜かれます。

そっと木の陰からみんなの遊ぶ様子を伺い、仲間に入れたら嬉しそうに笑って走るきつねくん。

わからない話題になると、そっと離れて教室で字の練習(?)をするきつねくん。

どうしてきつねくんは学校に来るんでしょう。

必死さとかは感じないけど、本能みたいなものでみんなの中にいたいのかな…って想像します。みんなの中にいたいしそれが当たり前の感覚でいるような。。

なんとなく自分の小学校時代を思い出して、きつねくんもそうなのかなと思いました。

小学校の時は「行かな(くてもい)い」「休む」という選択肢がなかったなーと。友達とケンカしたりうまくいかない時も、なんか行くもんだという感じ。「意識」さえしてない感じ。

でもきつねくんの場合はたぶん意識しないと化けられないから、無意識に来てるわけじゃないですよね。。ただ「気負いがない」っていうのが私には感じられました。

そしてきつねくんが熱を出すエピソードで、その暮らしぶりがわかるんですけど。。

先生を嬉しそうに家に案内したり、もてなしたりするきつねくんがなんだかとてもいじらしくて。可愛ければ可愛いだけなんとも言えない気持ちがこみ上げてきました。

ここでひとりでやりくりしながら学校に来てたんだな。。って思うと、けなげすぎて苦しい。

これがきつねくんの…きつねの当たり前だからかわいそうなんて上から思うことはないけど、だからなおさら、きつねくんのことが愛しくなってつらいというか。。

うまく言えません。

きつねくんは学校に通うことで、(無自覚の?)さみしさを埋めているのかもしれないと思いました。

先生

そんなきつねくんの正体に気づいている先生は、20代半ばくらいかな。転勤してきたみたいだけど。

こどもの時からひとりだけ、人間社会の中に溶け込んでいる「何か」に気づいてしまう先生。

そういうものに脅かされて怖くておばあちゃんに相談しても、まじめに取り合ってもらえませんでした。

やがて先生は誰かにそのことを話したりすることもなくなっていったのでしょう。

あの生き物たちと わかりあうことがないのなら

せめて 見て見ぬふりをするように

触れ合わないように

そういう気持ちでこれまで生きてきて、これからもそうだと思っていたのに違いありません。

私にはそういう先生が、きつねくんと同じかそれ以上にさみしい気持ちだったんじゃないかと思えるのです。すくなくとも本当はわかりあえる・わかちあえるはずの身近な人たちとさえ、そうできないんだという覚悟で生きているからです。

「話せば楽になるよ」と人は言います。

でも話した時に受け止めてもらえないとしたら、「人じゃない姿の生き物がいるんだよ」と言って「夢なんじゃないの」「嘘ついて」などと言われるとしたら、黙っている方がいい…と考えるのはそんなに変なことではないでしょう。

そして「人じゃないもの」からも敵意や疑いの目しか向けられないなら、まして狙われてしまうなら。

「人じゃないものが見える」ことは誰ともわかち合わずに、自分の中だけに置いておくしかなくなります。

”見て見ぬふりをするように”。

縁側で横になってうとうとしながら、幼い日に戻って濡れる先生のまぶた。。

やがて寝入ってしまいます。

そこへきつねくんが現れて先生のひじにスリスリした後、お腹のあたりで丸くなるシーンがとても好きです。



わかるよりも大切なこと

※ 音はついてないみたいです。 libre公式チャンネルより

このお話で私が特に好きなのは、きつねくんと先生は完全にわかりあっているわけではないという部分です。

きつねくんは言葉を理解できるし、そぶりで大体の気持ちを伝えることはできる。でも難しいこと(過去のことなど)はまだうまく伝えられないし、その機会もないようです。

そんな中「おまつりの夜」というエピソードに出てくるカラスは、いろいろな意味でとても印象的なキャラクターでした。

カラスとは過去につながりがあり、きつねくんは思い出して泣いてしまいます。

彼ならきっと先生より簡単に、より深くきつねくんとわかり合えるかもしれません。仮生*(けしょう)としても教わることが多いはず。

でもきつねくんが選んだのは先生でした。

汗だくになって探してくれた先生にいつもより甘えん坊になったきつねくん。

きつねくんにとって先生がどんな存在なのか。。

それを考えようとすると、あの縁側の、先生のお腹で満足そうに丸くなっていたきつねくんを思い出すのです。

あんなふうにただ寄り添ってあたたかい気持ちになる、そういうものなのかな…と。

そしてなんとなくそれが、宮沢賢治や新美南吉の世界にあるものに似ている気がして、胸がしくしくします。

仮生 け・しょう[名](スル)

仏語。四生 (ししょう) の一。母胎や卵などからでなくて、忽然 (こつぜん) として生まれるもの。天界や地獄、中有の衆生の類。
仏・菩薩 (ぼさつ) が人々を救うために、人間の姿を借りてこの世に現れること。化身。
化けること。化け物。妖怪。「化生の身」

goo辞書より

秘密を持っているふたりですが、閉じこもらずにおおらかに世界に馴染んでいるのもこの物語の好きなところです。

きつねくんはともだちと打ち解けていき「こどもだけの楽しい秘密」を共有して、先生は様子のおかしいきつねくんを心配しながらもその世界を尊重して見守っています。

先生が疲れた時には、きつねくんは自分の宝物をあげて先生を元気づけようとします。(やさぐれていてさえ、きつねくんの優しさに敏感な先生が大好き…)

一方だけが与える関係じゃなく、お互いに支え合っているようなのがとても伝わってきました。

ふたりの関わり方は、まるで理想的な家族のようです。

助け合うとかじゃなくて、わかり合うとかじゃなくて、わからないなりにただ自然にそっと寄り添える。

それはさみしい心にとって、なによりも嬉しいことなんじゃないでしょうか。。

 

カラスのエピソードできつねくんが泣いた、あの涙の意味をときどき考えます。

きつねくんはカラスのことを、カラスの言葉通りに思っているんじゃないだろうかと。。

人間だったらああは考えられないかもしれないけれどきつねくんはそう思っていて、だからあの涙には、かなしさとすこしの慕わしさがあったんじゃないだろうかと。。

カラスに対してわだかまりのないようなきつねくんの表情から、そんなことを思います。

カラスの距離感も素敵だなと思いました。あんなふうにいられたらなーと憧れます。

 

アッサリとした(?)オススメ文はこちら!

けなげでいたいけなきつねくん(特に濡れそぼった姿が超絶可愛いー!)が、どのページでも愛しさの波状攻撃を仕掛けてきて苦しい大好きな漫画です。もしまだ読んでない方には強くオススメしたい! グッズもある完成されたきつねくんのフォルム、ただただKAWAII。化けてない時のキツネのきつねくんも最高に最高です。

中のページはツイッター投稿時と同じ黄色と黒の2色刷りで、明るいような暗いような世界を見事に演出しています。黒の扱い方が大変おしゃべりで素敵だと思います。宮沢賢治や新美南吉の風味を個人的には感じています。

脇役のこどもたちやカラスの距離感も、たいへんいい塩梅です。

エピソードとエピソードの間に挟まれるカットも変な声が出そうになります。112ページがたまらない。ツイッターで大反響だったカラスの全身カットもあり✨(カッコいい!)

 

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