友麻碧・著『かくりよの宿飯七 あやかしお宿の勝負めし出します。』
KADOKAWA 富士見L文庫
かくりよの宿飯、第7巻です。ついに大旦那さまの出番がぼんやりとした一回こっきりに…!
<あらすじ> 大旦那様が妖都に行ったまま、天神屋に戻って来られなくなった! それだけでもパニックなのに、大旦那の座と鬼門の地の八葉の座を狙っているのはあの雷獣! でもショックを受けてばかりはいられない。天神屋は銀次を当座の長として営業を続け、葵と白夜は毎年恒例の妖都へ向かう宙船ツアーにかこつけて大旦那様探索に出発する。
🦐 6巻の感想
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夜ダカ号での営業
大旦那様がいなくて、どこにいるかもわからなくて、戻ってくるかもわからない。自分に何ができるのかも、さっぱりわからない。。いつも前向きでバイタリティあふれる葵ですが、今回はひどく弱気です。でもとまどう葵にとりあえずの道筋を示すのは、やっぱり銀次さんなのでした。
ずっとそばで見てきたのだから、あなたのお料理には確かに力がある。直接じゃないかもしれないけど、それはきっと大旦那様を助け、天神屋を守るきっかけになるーーー。
その言葉に落ち着きを取り戻した葵は、宙船ツアーの豪華船・星華丸でワゴン販売をすることを思いつき、さっそくアイデアを膨らませるのでした。
この夜ダカ号、すごくいいですよね。まさか現世のワゴン車まであるとは…。
ここでふるまわれるメニューがどれも美味しそうで、いつもながらお腹がすいて苦しかったです。。読み返すと営業としては2回しか使ってない。もったいないな〜。メニューが3種類あるんですけど、どれかひとつだけ、ってなったらそれぞれどれを食べようか真剣に悩んだりして。とりあえず…ハンバーガーは三のセットでオニオンリング飲み物は温かい炭酸。スープは最後の中華のでごはん類からカレーパンにしましょうか。…う〜ん、美味しそうです!
そこにやってくる謎めいたお客様。葵はどこかで見たことがある気がする、と思うのですが、どこで見たんでしょう? この方がどなたかはだいたい見当がつくんですけど、葵が前に見たこの方に似た人、というのがお話の中に出てきたかどうかが思い出せない私です。。…出てきてました? ちょっと探せませんでした。読者がまだ知らない部分なんでしょうか。
竹千代様
夜ダカ号の営業が終わると、葵は白夜さんの言っていた『別件』で2巻に出てきた律子さんと縫ノ陰様の邸宅にお忍びで招かれます。ひさしぶりに会った律子さんと美味しいものを食べるだけ…じゃありませんでした。
縫ノ陰邸に預けられている、妖王の孫、竹千代様は食べることが嫌い。妖都の野菜も、洗煉された調理法も大嫌いと、食べることを嫌う彼のこどもらしいしぐさ、さみしいからすねてしまってむずかしい様子も、なんだかいじらしく描かれています。隠世のダークヒーロー、津場木史郎に憧れてるところもカマイタチのちいさい子たちみたいで可愛いです。ふだんに水干着てるところも想像するときゅんとしてしまいます!
食べることがさみしさの象徴になってしまった竹千代様のこころを、優しく解きほぐそうとする葵。そのときにこうしてあげようと思いつくそれが、すごく子どものことが好きじゃないとなかなか思いつかないやり方だなあ、もし自分がこういうふうにされたら、きっと葵が大好きになるなあ、と思って、やっぱり友麻先生はこどもが好きなんだなーとあらためて思いました。すごく楽しい食育です。この竹千代様とのエピソードがこの巻でいちばん好きな部分でした。まるで自分も参加しているみたいにすごくワクワクした気分になります。
白夜さん
白夜さんは一番最初に厳しくてこわいかも?と思いましたが、すぐ好きになったキャラクターです。厳しさは理不尽じゃないし、何と言っても管子猫たちをこっそり可愛がったりしているのを知ったあとは、もうたたみかけるように好きなところしかありませんでした!
そんな白夜さんは、妖都にもいっしょに来ました。妖都で要職に就いていた働いていた白夜さんはいろいろなところに顔がきき、大旦那様の排斥運動(?)についても情報を集め、働きかけをすることもできるから。もちろんそういう活動もしながら、なんといっても頼れる白夜さん! あのだいっきらいな雷獣にもけっしてひけをとらずかばってもくれて、もうほんとうに大好き!
でもこの巻では、そんな彼の隠された切ない過去が明かされます。
なにかこのエピソードを読んで泣いてしまいました。彼女の言葉に。
それに白夜さんが、不自然な不老不死の薬は人を幸せにしないと知っていた、という部分がとてもいいなと思いました。それは時々考えるテーマだからです。むかしはそういうことに憧れましたけど、いまとなってはそれがなによりの不幸であることが理解できる気がします。私でさえそうだから、かなり長く生きているあやかしである白夜さんは『知って』いても当たり前なのかな、と思いました。
白夜さんと砂楽さんが大旦那様の元へ、天神屋へ来ることになったいきさつも語られました。みんなそれぞれの過去があって、だから天神屋がだいじなんですね…。そしてその要が大旦那様だから、いないことが読みながらもますますすごく不安になってきます。
大旦那様
そして要の大旦那様は、今回ついに一度だけ、おぼろげな姿での出番でした。
あのにくったらしい雷獣の策で真実の姿を暴かれ捕まってしまった大旦那様。ほんと、なぜあんなやつを重用するのか…妖王様の気がしれないのですっ! やつのことは何を知っても好きにはなれないと思う。。。
大旦那様の気配があったのは、『あの鍵』で開けた扉の向こう。6巻の感想の中で私は、例の水にだけ映る洋館の鍵じゃないかと考えてましたけど、ここでは扉しか出て来てないのでわからないですね。。どこなんでしょ。でも黄金童子がどうやら葵を招き入れたみたい。中央に黒曜石の石碑があり、古そうな文字が刻まれている。。
ここはもしかしたら、大旦那様が封印されていたという場所でしょうか。
大旦那様の正体が、正体というか、彼が何なのか、ということはこの巻でわかります。
でも、大旦那様は何をして封じられたんでしょうか。彼が解放されたら鬼門の地がどうなったかを考えると、ほんとうに謎です。そして今でも天神屋の崖の下にアレが残っていることも謎なのだけど…。
まあ、それは今の段階では考えてもわからないので、それよりも気になったのは、白夜さんのこのセリフです。
「それに、大旦那様は……もう……」
161ページ
…やっぱり大旦那様は、葵の命を救う謎のアレを手に入れるときに、不可逆的な何かを代償として差し出したんじゃないでしょうか。それは邪鬼としての強大な力…?
かくりよの宿飯を読み続けるうちに、物語をハッピーエンドで終わらせるためにはどうしたらいいのか、というのをときどき考えています。この下に私なりのふわっとした思いつきを書きますが、物語の根幹に関わることなので、見たくない方もいらっしゃると思います。読みたい方は反転させて読んでください。。7巻までを読んでの単なる個人的な想像なので、この通りにはならないと思います。
<ここから>
大旦那様はあやかしで葵は人間。律子さんの例から読み取れることは、ある程度隠世の食べ物をとることで人間が現世でふつうに生きているよりは老いも緩やかにすることはできるものの、寿命そのものを同じ長さにすることはできない、ということ。
もしこの物語をハッピーエンドにするなら、そこをどうするのかが個人的にとても気になる。
想像1:大旦那様が葵の命を救ったアレには大旦那様の強大な力あるいは生命力が入っていて、食べた葵はそれを引き継いでいる。大旦那様と葵はちょうど半分ずつの寿命を持つことになり、だいたい同じ頃まで生きることができる。
想像2:やはり大旦那様の準備したアレには彼自身の強大すぎる力あるいは生命力が入っている。葵はそれで呪いを祓うことができたが、寿命は律子さんと同じ程度にしか伸びない。しかし力をかなり失った大旦那様も葵と同じくらいの寿命になっている。
想像3:大旦那様はアレを手に入れるために自身の力を代わりに差し出す。食べた葵は呪いからは救われるが寿命は伸びない。大旦那様の寿命も変わらない。しかし限りある命の中でできることはなにかを悟った二人。子孫に受け継がれる葵のお料理。。みたいな。。(でもこれは現実的なだけにものがなしくなる…)
史郎の呪いの原因が隠世の”シローのぼうけん”で彼が対峙した何かと関連があるのではと思う。「果たされていない約束事」というのは借金のかたに葵を差し出すということではなく、その件に関連しているのでは。そして葵に食べさせたアレにも関わっているかもしれない。
<ここまで>
最後に
今回はいろいろなエピソードがからまり合いつつ、物語が大きく動いた激動の巻でした。葵の感情の動きも忙しく、でもほのぼのした部分もたっぷり、美味しいものもたっぷり、にくったらしい雷獣も出て来たけど白夜さんが拮抗してくれてスッキリ、な怒涛の展開です。あっ、ジーンとしたりしゅんとする場面も今までより多かったです。なにかけっこういろんなところで泣いたなーという印象。。
妖王様だけが見ている事の顛末、すごく気になりますね…。それが、人間の葵がいることでひっくり返るようなことならいいのに。
それと、天神屋の創設メンバーのひとり、ザクロさんがぜんぜん悪い人じゃなかったのでよかったです! むしろいいひとだった。また出て来てほしいです、ううん、出て来てくれるはず! 彼女は大旦那様を助ける鍵を一つ持っているから。そのときに葵が作るであろうお料理も楽しみです。
今回のお料理もどれも美味しそうでした。特に水菜たっぷりの水炊きとおでん、美味しそう…。シローのまっころん、が竹千代様だけでなく、白夜さんにも大きな助けになったことが、葵のためにすごく嬉しくて、これからもみんながでかけるときにはすぐにつまめるものを持たせたらお守りになるなーって思いました。
はやく大旦那様に出て来てほしいけど、そのときは終わりが近いのかもしれなくて。でもいないとニヤニヤできないし…。すごく悩ましいです。またのんきなデートをするだけの話が読みたいです。表紙に『実はいる大旦那様』、ずっと見つけられなかったんですけど、この感想を書いてる間に「もしかしてこれ…?」というのを発見! スッキリしました。
かくりよの宿飯 七 あやかしお宿の勝負めし出します。 (富士見L文庫)