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ライトノベル

その鍵で開くもの👹『かくりよの宿飯六 あやかしお宿に新米入ります。』

かくりよの宿飯 感想

友麻碧・著『かくりよの宿飯六 あやかしお宿に新米入ります。』
KADOKAWA 富士見L文庫

かくりよの宿飯、第6巻です。山賊懲らしめデートの前半と、お別れさみしい&大旦那様にときめく後半の、箸休め的バラエティでありながらも、いつものように盛りだくさんの内容です。

<あらすじ> 南の地での儀式を成功させた葵は再び天神屋での日常を取り戻した。おりしも新米のおいしい季節。夕がおの営業はもちろん、従業員たちのまかないにも楽しく腕をふるう毎日。大きな事件もなくひといきついたそんなとき、大旦那様から果樹園デートに誘われるけれど。

 

🦐 5巻の感想

≫『かくりよの宿飯五 あやかしお宿に美味い肴あります。』

『かくりよの宿飯』シリーズの感想一覧はこちら

かくりよの宿飯

実のところこういうラノベについてはどきどきわくわくしたことだけを記憶して物語の細かい筋をすぐに忘れてしまうので、おぼえておくために書き始めた感想でしたが、ここまで書いてきてやっぱり忘れていることが多いなあとあらためて思った今作でした。。ちなみに読み返しながら感想を書いているのですが、7、8巻の記憶もうすぼんやりとしかなく、感想の中での今後の予測や「〜かもしれません」と書いている部分はほんとうにあてずっぽうなのであらかじめご了承ください。。

百目紅葉の里

まずは、けっこうのんきで楽しいお話が展開されます。

お米大好きあやかしたちの秋! ご飯以外ないわよと言いつつ、炊きたての新米と常備しているごはんのお供とで、みんなで食べる夕ご飯美味しそうです。ざっくりですがいつものように材料も書いてあるので、どれか作ってみようかなーと思います。梅ひじきのふりかけが特に美味しそうに思えました。シャケフレークも大好きなんですけど、こっちは分量がないと失敗しそうかな…。そしてTKG! 炊きたての新米で卵ご飯は、ぜいたくがすぎますっ。

そんなふうにがつがつと食らうあやかしたちの魔窟に、大旦那様がやってきて葵をデートに誘います。ふたりで完全にのんきな気分でおでかけなんて、すごく久しぶりな感じ。これを使って新しいお料理を作ろうと張り切る葵は、ろくろ首の六助さんの果樹園で大旦那様と楽しくぶどうやりんごを狩るのでした。

めでたしめでたし。……とはならないのがかくりよの宿飯。

のどかなデートから一変、あるアクシデントを経て、葵と大旦那様は山賊狩りに策を巡らすことになりました。

でもけっこうこのエピソードはふんわりしていてやさしいムードです。討つべき山賊もなんか単純筋肉ダルマって感じだし、葵の武器はここでもやっぱりお料理なのでその描写も明るく楽しい。また、かくれ里のこどもたちの可愛さに、友麻先生はちいさいこどもがきっとすごく好きなんだろうなあ、と思います。これまでのお話でも、こどもたちやチビについての文章はいつもとてもやさしい目線で、5巻の海坊主なんかも、いたいけな様子がよく伝わってきて、だからすごく切なったんですよね。そういうことがあらためてよく感じられました。

葵の微妙な心境の変化が丁寧に描かれてドキドキし、北の地や辺境の里のあやうさも織り込まれた不穏さもある、でも全体的には秋晴れの感じの、読者にもあった(?)儀式の疲れを癒してくれるようなお話です。

 

闇の女子会

折尾屋でのねねとの女子トークが好きだった私なので、このお話はまたとても面白かったです。メンバーはいつもの、葵、お涼、春日、静奈ちゃんの4人。コタツを囲むのにはベストな人数!w このメンバーでブリしゃぶですもの…、美味しくて楽しいに決まってる…。

ところでブリしゃぶって食べたことないんですけど、美味しそうですよね。私はこのお料理の描写を見て、むかしに読んだ漫画を思い出しました。篠崎まこと先生の「ハロー!理子」という作品です。3巻に青魚の美味しそうなお鍋が載ってたなあ…と思ってひさしぶりに書庫から出して読み返してみましたが、ブリではなく鯖でした💦 鯖のお鍋は大根を細く長く削ったものを鯖と一緒に大量に入れて旨味を吸わせるものでしたが、ブリしゃぶは最後にうどんに美味しい汁を吸わせていて、どちらも美味しそうです…。ああ…。食べてみたい…食べてみたい…。

そんな美味しいブリしゃぶと山りんごのお酒で盛り上がってゆく女子会。その議題はいつだって恋バナと相場が決まっているのです。

まわりの独身従業員をアレコレ品定めする会話がすごく面白い。5巻で好きだったねねと秀吉の婚約の話も出てきましたが、この一部始終をすっごく読みたいんですけどどこかで読めないんですかね?! 愚痴るお涼と実は諜報活動に余念のない春日、普段言ったら認めないであろう◯◯専を認めてしまう静奈ちゃん。カオス。すこしずつ大旦那様への意識が変わってきた葵の恥じらいにはキュンときました。

そしてこの出来上がった空間に引きずり込まれる癒しのサスケ君。。。

春日

春日のキャラって不思議です。見た目はいかにも狸なのに、内面はけっこうさいしょからクール、っていうかシャープな印象でした。葵が天神屋のみんなにいじめられているときも普通に話してくれ、葵を襲ったお涼が熱に倒れた時も淡々と夕がおに運び込む。いつも正直でけっこう堂々としてるというか。その理由が今回わかりました。

黙っていただけで、隠していたわけでもないような、春日の出自。それは隠世に生きる者にとってはけっこう衝撃で、だから明かされてなかったのだけど、ついにみんなの知るところとなったのです。それは、春日が天神屋を去る理由と関係があったから。

春日はこれまで本能のままに生きるお涼との対比で、落ち着いてしっかりちゃっかりしている愛されキャラ、というイメージも強かったのですが、今回初めてほんのすこしの弱さのようなものも見せます。よく知った相手やよく知った場所でどうすればいいのかは、集めた情報も頼りにしながら冷静に判断できるのでしょう。でも、ずっと会っていないかつて大事だった人相手に、よく知らない土地でどうすればいいかなんて、誰もわからないですよね。。相手の気持ちもわからないし。だけどどうにかしてあげたくて、でも不安でいっぱいなんでしょうね。…ハッ! これってマリッジブルー⁈ …まあ、そんな面もあるでしょうけど、背負ってる責任の重さが、頭のいい春日にはもしかしたらうんと深いところまで見通せていることもあるのかもしれません。

葵には時折八葉の伴侶としての心構えを伝えてくれたり、意地を張ったお涼と喧嘩してさみしくなったり。そして開発中のお土産のお手伝いをしたり。天神屋の仲居としての春日にはもう会えないけれど、これからもその気配はそこかしこにあるんだろうと思います。

天神屋幹部の秘密基地のすすき野原で、狸姿になった春日は想像すると可愛くていじらしい。むずかしいかもしれないけど、またこんなふうにのんきに、今度はお涼も一緒に過ごせたらいいのになあ。。

大旦那様

んもー、どんどん可愛くカッコ良く素敵になってくる大旦那様ですが、この6巻の最後の方ではついに直接攻撃を仕掛けてくるので心の準備が必要です!

果樹園でのデートの前に、いつもと違う緊張を感じる葵。だけど朝早くの出発に準備したお弁当は、葵にとっての大旦那様がどんな存在になっているか、けっこう雄弁に語るのでした。

今回も”妻と家事を分担する今時のできる旦那”を目指す大旦那様が見られます。大旦那様って鬼としての怖い面もありながらこういう可愛いところがあるのがギャップがあっていいですよね。きちんと爪を短くして、言いつけられたことを手際よくやる大旦那様は、「偉いわよ」と褒められてガッツポーズまで取ってます。そして美女姿にもなってくれて、どんな絶世の美女だったんだろうかと気になります。

このとき使い魔の鬼火のアイちゃんがやっとオリジナルの姿を得るのですが、その一連のやりとりもなかなかニヤニヤしてしまう…。

そして果樹園デートからの帰りに、ついに葵は大旦那様に恩妖のことをそれとなく尋ねてみるけれど。

この会話の流れを読むと、どうやら葵が食べたアレは葵が知れば”責任を感じる重荷”になるような経緯、あるいは交換条件で手に入れたもので、大旦那様は何か決定的なものを失うか捧げ続けるかするような状態なのでは、と思いました。おそらく何かを犠牲にして手に入れたアレで葵の命を救い、呪いを解いたかも知れないけど、それを話して感謝され、あわよくば好かれるよりは、彼女に何も背負わせないことを選んでいる、ということでしょうか。

でも葵は、恩妖にお礼を言いたいし、だいじに思い始めている大旦那様のことをよく知りたい。そして今まで親しくしたあやかしにしたように、あるいはそれ以上に、なにかあるならいっしょに背負いたいと思い始めていて。

どちらの気持ちもわかるし、ふたりともお互いの気持ちはわかってるから、ちょっとしたこう着状態ですね。。何か大事件がないと、これ以上進展できないかも。。。でもそれが、葵の気持ちをますます硬くしていく良いスパイスなんでしょうね〜、なんて、読者は呑気に思っていますが。多分大嫌いな雷獣が大活躍するんでしょうね。。あとまだ好きになれない黄金童子も。あーー。。。気が重いけど、続きが気になりますw

そして秋祭りの夜ですよ。

最初の頃、大旦那様が物語にあんまり出てこない(葵の周りにいる描写がない)のは、彼のさりげない気遣いだったということが、ここにきてほのめかされてしまいます。…うっ、やられたw こういう巨視的なものの捉え方って個人的にすごく男の人って感じがして、ときめいてしまいます。

そしてふたりでゆっくり、大旦那様の苦手なかぼちゃ料理を味わう様子はすごく暖かくて好きです。美味しそうで、くだけた雰囲気がほのぼのとして。

最後に大旦那様は、葵に黒曜石の鍵を渡します。それは本当の大旦那様を知ることのできるものにかけられた鍵。

大旦那様は時折、僕は鬼なのだから、という流れで”ほんとうのことを知られれば葵にひどく嫌われるだろう”という思いを語るようになりました。大旦那様が鬼であることと、葵の命を救ったアレは、なにか関係があるのでしょうか。

葵の性格をよく知っている大旦那様が、知られれば嫌われると強く思っていることが好きゆえの不安にすぎなければいいのにな、と思いますが、そんな甘くはないのでしょうね。。

そしてお別れのシーン。…ここについてはもうなにも言うまい。ただたまらなくきゅんきゅんしました。。

このあと、大旦那様とはずっと会えなくなりますが、葵はその鍵で開くものを見つけられるでしょうか。秘密の庭園の水に映るだけの洋館、あやしいとおもうんですけど、どうでしょうか。。

最後に

温泉饅頭の件で天神屋の秘密の庭に行った時、葵自身が、現世にいたらいろんな意味でひとりぼっちだっただろう、だから隠世での暮らしも悪くない、と言っていました。5巻の感想で葵の現世への未練のなさがさみしいと感じると書きましたが、やっぱり本人にも自覚あったんですね。葵にとって、おじいちゃんがいない現世は、ひとりであやかしと戦う孤独な場所なのかもしれません。もしかしたら理解してくれる人もいるかもしれないけど、本人が理解されないと思っている限り、その通りの世界でしかないですし。それに葵はもう、はっきり自分の意思で隠世を選んでいるのでしょう。。そんなことを思いました。

これまでに出てきたキャラが少しずつたくさん出てきて、それぞれの胸の内も語られている今作。帯には新章開幕、とあったけど、ほんとうの新章の開幕に向けた”幕間”って感じの重要で濃い一冊でした。

 

 

かくりよの宿飯

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