せつない存在👹『かくりよの宿飯五 あやかしお宿に美味い肴あります。』

2018-09-14

友麻碧・著『かくりよの宿飯五 あやかしお宿に美味い肴あります。』
KADOKAWA 富士見L文庫

とっても楽しいかくりよの宿飯、シリーズ第5巻。

<あらすじ> 竜宮城で磯姫様に会った葵は、その願いもあって儀式の要・『海宝の肴』を担当することに。海坊主を満足させられなければ、南の地、ひいては隠世全体が穢れに襲われ、大災厄が起こるという。雷獣の介入もあり、儀式の準備が難航する中、大旦那様や銀次、双子の料理人に助けられながら、準備を進めるけれど。

 

🦐 4巻の感想

折尾屋の面々

折尾屋の面々はごく一部を除いてすごくわかりにくいキャラが多いですよね。高圧的で居丈高で、怒りっぽくて。天神屋と敵対してるからだけとも言えないなにかがあるような気がします。

でも若女将のねねは、最初にいじけて本性が出てからすごく可愛くなりました。やっぱり弱みに触れると、本人はそれをすごくマイナスなものとして隠したがるんですけど、それこそが可愛いところだったりするんですよね。その人のふだんいやだなと思う振る舞いなんかの理由がわかって愛しくなるというか…。これって現実にもあてはまることかもなあ、なんて思いました。素直に謝ってくれたりして、実はかなりがんばりやのいい子でした。

そんなねねといっしょに、女の子同士の買い物みたいに港町でお茶したりしてるのが楽しそう。そこで打ち明け話をしたりして。葵って聞き上手だなと思います。聞き上手だし、包容力がすごいです。落ち込んでると一緒にいてくれるけど、おせっかいを焼かないところなんか、「だからあやかしに好かれるんだろうな」と感じます。見習いたいところです。

ねねとのエピソードで、あのうるさくて落ち着きがなくて乱暴者の秀吉のことまで見直してしまった! いろいろわかってから秀吉のことを見ていると、彼は彼で一生懸命で、乱暴者だけど(重要)けっこう可愛い奴なんだなあと微笑ましい気持ちになりました。

折尾屋の大旦那・乱丸もはじめから親しみを感じるキャラじゃない。あの優しくて人好きのする銀次さんの兄(血縁的なものではなく環境的なものですが)だけど、真逆の性格のよう。だけどやっていることは信念があって正しいから、お宿のみんなは乱丸のことを尊敬しているという。

はじめは若旦那の秀吉ほどじゃないけどなんか嫌な奴だなーと思ってしまってましたが、今回の物語でだいぶ好きになりました。前巻まではほとんど葵といっしょにいることはなかったせいで、いまひとつ、良いところも見つけられなかったですしね。

でも、今回の最初の方であのだいっきらいな(言ってしまった)雷獣からさりげなくかばってくれたり、いっしょに玉の枝を取りに行った時の可愛い子犬姿でいばってるのが可愛くて、あっさり好きになってしまいました。ちいさい銀次さんと乱丸とで、ちっこいもふもふのけだま…たまらないですよね。目的を同じにして、いろいろなことをいっしょにやり、葵のご飯を食べるうちにふたりの関係も修復できて、すごく良かったです。

知ると愛さずにはいられない というようなセリフを昔大和和紀先生の漫画「菩提樹」で読んで感銘を受けたものですが、ほんとそうだなあ…と思うのです。

葵のさみしさ

5巻まで読んできてずっと感じていたことなのですが、葵は現世(人間の世界)にほとんど未練がないですよね。隠世に来てしまえば、通っていた大学を卒業できないだろうこと自体もそうですが、その結果人間の友人と離れるのがつらいなどの描写がない。

 

でも、あれだけ戻りたいと思っていた現世にも、もう未練がない。

1巻 329ページ

とあるけれど、本文中にはそれほど帰りたいと思ってる様子は描かれていません。帰りたいというよりも、天神屋の従業員の中で孤独でいることが嫌だったり、借金のカタに自発的じゃなく嫁に行かされることに反発しているだけのように感じます。

ふつうのハタチの女性ならたくさんの未練があるでしょう。ともだちや好きな人もいるだろうし、学校やアルバイトや、他にも現世に帰りたい理由は山ほどあるはず。

でも、葵はそうじゃない。

葵の現世での未練は、育ててくれた大好きな祖父の願いをかなえることができなかったことだけ。それも一度現世に帰った時に果たせてしまったので、「借金を返す」という約束を守るためにまた隠世へ戻るのです。

もし。現世で葵が天神屋のあやかしたちやねねに対するようにまわりの人間に接していたら、葵の周りにはたくさんの人が集まっていたはず。親友もいるはずだし、その数は多いはず。なのに葵の現世の未練が生きている人にないことが、なんだかさみしい気がするのです。葵の周りに未練を持つほどの親しい人影がないことが、すこしさみしいのです。

なぜ葵は、人間に対してはあやかしにするようには接しなかったのでしょうか。

人間にも、おなかをすかせてどうしようもないというような人がいれば、葵はご飯を作るのでしょうか。

でも…、いろいろ考えていく中で、今の日本にはふつうに生活している若い女の子が食うや食わずの存在に触れる機会はそれほどないだろうということと、それ以上に、空腹を訴えてくる、あるいは葵を食べようとしてつけねらってくるあやかしの多さが、人間に対しての注意を薄めていたのかもしれない、ということに行き当たりました。

なにしろあやかしを視ることのできる存在はそんなに多くはないはずだし、そういう霊力の高い人間は”美味しい”というし、あのおじいちゃんの孫である葵はなかでも特別な珍味なのかもしれません。あやかしに食べられないようにすることが葵の一番優先させるべきこと。襲ってきても、お腹をすかせたあやかしを放っておけない理由もあるし、そのことばかりにたくさんの力を費やしたのかもしれません。人間関係をあとまわしにするくらい。…命がかかってますもんね…。

現世にいても、おじいちゃんとあやかしたちで葵の世界はできあがっていたのかもしれません。だから隠世でもすぐに馴染んで、あやかしたちと友情を育んだり喧嘩したり『ふつうに』できるし、一度現世に戻っても、隠世に「帰ってこよう」と思えるのかもしれません。

葵の身の上的には、それが必然だし、それでいいのでしょう。人間としては少しばかり寂しい気がしますが、場所が隠世で相手があやかしだとしても、葵がいろいろな関係を紡ぐことができる環境にいるということは、やっぱりしあわせなことなのだと思います。すくなくともあやかしが視えることで感じてきた孤独は、そこでは当然影さえささないわけですし。

恩妖のことがはっきりと語られるときに、葵に勝手に感じている寂しさは、完全に払拭されるような気がしています。



あやかしのさみしさ

儀式でもてなさなければならない海坊主がどのような存在か、すこしずつ明かされていく今回。ダイダラボッチとも書かれていますが、現世の民話や伝承の存在とは大きさだけが共通した別の存在です。現世のそれは人々に愛され、共に生きるちょっとお茶目なものですが、この隠世の海坊主は、ただただ孤独なさみしい存在です。儀式の場でチビが頓着なくやってしまったことで決定的にわかるのですが。

その、あざとさに定評がある手毬河童のチビ。今回はこのこにも泣かされました。

葵が味覚と声を封じられてすぐにオムライスを作ってみるシーンで、ちょこちょこ出てきて、不安な葵のことなど何もわからずただのんきに全肯定してくれるチビ。葵はこの時どん底だったのでくるしい気持ちにもなったのですが、なんだかちょっとほろっときました。チビは損得勘定…はあるんですけど、こころにもないことを言ったりしたりしないというか…。なんか単純な感じがあるので、ほんとにそう思ってるのかなって信じられます。

儀式の最中も転がり出て禁じられた御簾の中に入り、海坊主からキュウリをせしめるチビ。そのおかげで海坊主の本当の姿を知ることになったのでした。

 

「(前略)僕は分かるでしゅ。僕ものけもの。(後略)」

306ページ

チビは多分、ふだんからそんなにそのことを根に持ってるというか、考えたりしてるわけじゃないと思います。なにかそういう性格じゃないというか。でも、おなじように何も悪いことをしていないのにひとりぼっちにされ、囲いの中で静かに泣いているちいさい姿に、これはなんとかしてあげなければ、という強い気持ちが湧いたのかもしれません。そのさびしさが、深く理解できたということなのだと思います。

それは葵もおなじで。…実のところ、私も同じで。

この海坊主のほんとうの姿と、仕草の可愛さ、そしてその存在意義の残酷さ、それからちいさいチビが示したまじりけのないいたわりのこころ、愛情のすべてに、なんだかどばっと涙が出てしまいました。あやかしのよいところがギュッと凝縮されたようなさみしいふたつの存在でした。

そして海坊主は満足して次の約束の言葉を残していったけど、100年後のそのとき、たぶん自分はもういないだろうと葵は考えるのでした。そのことがかなしくて、またひとしきり泣いてしまいました。

葵のご飯と銀次さんのご飯

今回もたくさんの美味しそうなお惣菜をいっぱい作ります。儀式があるので少しだけかしこまったようなメニューもあるけれど、葵流の味付けになっていて、味が想像できて読んでいるとお腹がせつない。。

たくさんあるなかで特に心惹かれたのは、玉の枝を取りに行った時に飯盒炊爨で作ったヤマメの炊き込みご飯ときのこの串焼きです。焚き火で焼くきのこ串…、ベーコンときのこのエキス…とろけるチーズ…プチトマトの汁(火を通したトマト無双)…。そして焼いたヤマメにフキやナラタケも入れた炊き込みご飯〜生姜じょうゆ味〜。

儀式で作ったお料理も美味しそうでした。エビの味噌マヨネーズ炒め、食べてみたいです。

物語の途中で、葵に元気を出して欲しいと銀次さんが作ってくれたものも、すごく感動しました。こんなにちまちまといろんな種類を作ってくれるなんて…。それはほんとうに銀次さんの『真心』だったのにちがいありません。

大旦那様

大旦那様は今回も葵をさりげなく見守っていて、それがすごく良かったです。あくまでも遠くから、葵には告げずに、というスタンスなので物語にあんまり出てこないのは寂しいですが、それがやけにカッコいい。

若くてチャラめの大旦那様も、ワンシーンだけ楽しむことができます。その姿の大旦那様と葵のやりとりを見てふたりの仲を疑うねねは、やっぱり女子なんですね。正直大旦那様はおおっぴらすぎるし、葵のツンツンは意識してるってバレバレですもんね。当の葵がまだ自覚してないのがじれったくも楽しい。

そんなくすぐったさもありつつ、前巻でさらりと出てきた大旦那様の正体…というか本質が、またすこしだけ垣間見えます。そのことも、これからのふたりの関係に大きく関わってくるのでしょう。

最後に

そしてこのお話の最後に、ついに葵にも、恩妖の正体だけはわかります。

でも、まだまだ謎は多い。おじいちゃんの呪いとは何か、なぜ葵を見つけてくれたのか、葵に食べさせてくれた手に入れることが何よりも難しいという美味しいアレはなんだったのか、それを手に入れるために何をしたのか…。

それがわかるときに、また大泣きしてしまいそうな予感がしますが…。

大旦那様と葵と、…、いえ、いままで出てきた好きなみんながしあわせになる結果でしょうから、その涙はきっと心地よいもののはず…と信じて読み進めていきます。