友麻碧・著『かくりよの宿飯九 あやかしお宿のお弁当をあなたに。』
KADOKAWA 富士見L文庫
前巻までとはうって変わって大旦那様大フィーバーの第9巻。いよいよいままで隠されていた秘密が、ほかならぬ大旦那様の口から語られます。
<あらすじ> 黄金童子に連れられて訪れた文門の地。学生に身をやつした大旦那様とあっさり再会した葵は、しばらくこの地の黄金童子の別荘に身を寄せることになった。状況に不似合いなほど落ち着いていて、「ダラダラしよう」と言い出した大旦那様は、ひとつの意外な提案をしてきた。毎日弁当を一つ作ってもらう対価に、それ相応の真実を一つずつ語ろう、と。
🦐 8巻の感想
『かくりよの宿飯』シリースの感想一覧はこちら
かくりよの宿飯、完結❣️
最終巻の感想書きました🍙
文門の地
北の地よりは暖かい文門の地では、ふたたび活気のある街並みを感じることができます。最高峰の教育および研究機関が集まるこの地は、どこかヨーロッパ風の整然とした町並みで、大きな時計等があり、通りには緑のタイルが敷かれているという…。植物園などもあり、落ち着いて勉強できる良いところっぽい。。
でもみんなのプライオリティが研究だから、お食事事情がすごく寂しいのが難点でしょうか。なにかと都会的な感じで、コンビニのようなお店かスーパーもあるけれど生鮮コーナーは狭いみたいです。
でもなんといっても活気があるところがほっとする〜…。前巻のひとけのない寒さをまだひきずっている私です。
大旦那様は葵が到着する前の日に目覚めたということですが、ここで何をしているわけでもないみたい。目立つ行動もできないでしょうし。ただ、なにかを待っている、行動する前のひととき…といった平和な日々がはじまります。
いちおう隠密行動なので、ここでの大旦那様はちょっとだけ若く、学生服である臙脂色の羽織を着ていて。このちょっと可愛い感じも、葵に対して話してる時の印象のままで可愛いですよね(表紙参照)。…いつもの、いかにも大旦那然としてるのに嬉々として葵の言うことを聞く大旦那様、というのもギャップがあって大好きだけど!
ここには千秋さんもいるし黄金童子の別荘にはお手伝いのお蝶ちゃんもいて、一冊を通してずっとあったかい雰囲気。これといって嫌な人も出てこず、楽しい気分で読み進められます。竹千代様のお母様のご無事も確認できましたし…。
特に孤児院のエピソードは楽しくもあり、心に残るところもあってとても良かったです。すっかり存在を忘れていた反之介とのそれほど嬉しくもない再会で大旦那様が言った言葉や示した態度が、なんとなく自分自身にびーんと響きました。彼の後日譚も読んでみたいです。
文門の地のシステムや環境はとてもいいなーと思って、天神屋の次に住みたいなとまで思いました。
…とはいえ。
やはりなんとなく大事の前の静けさ感があったり、大旦那様の様子が儚く思えて、のんきでしあわせであればあるほど、このあとにどうしようもないことがあったりするのでは…とびくつきながらページをめくるのでした。。
お弁当ひとつと、秘密ひとつ。隠世の成り立ち。
何かを待っているような大旦那様は、毎日のお弁当と交換で葵の聞きたいこと一つに答えようと提案してきます。
いままであんなに話したくなさそうだったのに、なぜ急に…?
なんだか大旦那様…いなくなるつもりでは、とこわくなったのですが、知りたいことは知りたいので、のろのろと読み進めましたとも…。
順を追って、ひとつずつ。
葵の呪いを解いたアレのことや大旦那様自身のこと。
やっぱり…と思うこともあったり、そうだったのかと思うこともあり。
ここはこの物語の肝なので、いまは語ることはしないでおこうと思います。次が最終巻とのことなので、その感想を書く時にしましょう。。
大旦那様は話の流れの中で、この隠世の成り立ちについても教えてくれます。それは大旦那様の出自にとても関係があるから。
もともとの治世を奪って為政者となったものが作る歴史書は、いつでも恣意的なものです。
自分達を正当化するために、それまでの統治者を『攻め落とすべきもの』『悪者』として描く。これは人の世でもありふれたやり方ですよね。『古事記』や『日本書紀』にもそういう意図がありますし、世界ともなれば例は数知れず存在するでしょう。
隠世においても、現妖王や為政者たちの権威を高めるために、かつて彼らが来るまでを治めていた一族はいまではすっかり邪悪の中の邪悪な存在としてしっかり浸透してしまっています。
そういった『教育』を覆すには、どんなことが有効なのでしょう。事実はひとつしかないけれど、真実は、解釈したそれぞれの数あるんでしょうから。。
大旦那様はこの文門の地で何が揃うのを待っているのか。何を仕掛けるつもりでいるのか。。
不安は残りますが、これをどう解決するのかとても興味があるので、次巻が待ち遠しいです。
黄金童子
『私が』つねづねよく思っていなかった黄金童子。ここに連れて来られる時も、警戒心を解くことができなかった黄金童子。…だったわけなんですけど、その感覚はやはり正しかったのだな、それで良かったんだ、と思う今回のお話でした。
とはいえ、別に葵を陥れるとか、罠を張っていたとかではないので、ご安心ください(?)。
黄金童子がなぜあんなふうな態度だったのか、それは大旦那様が葵にくれたアレに関係していました。
「……そうだよ。だから最初は、お前がなんだか少し、憎らしかったよ」
234頁
大旦那様は黄金童子にとって大切に育てた我が子のようなもの。あやかしにとっても短くはない期間、見守ってきたわけです。
だから大旦那様を弱らせてしまう原因を作った葵のことをよく思っていなかった。それでなんとなく冷たく、意地悪だったわけです。
その気持ちを聞いて、なんだかすごくスッキリしました。それはそうですよね、人間の娘のために、あたら命を縮めたのです。大妖怪で、そのままなら自分と同じくらい、それ以上生きていてくれ、力を誇れただろう大切な存在が。
すくなからず、そっか〜、やきもちだったかあ〜、とも思ったり。
しかし黄金童子ほどのあやかしでも、やっぱり人間の脆さについてそれほど実感を持って受け止めてはいないんだろうなあ、と思いました。そうでなければ1巻でされたことは水には流せないですし…。むむ。
だけど結局大旦那様の願いを聞き入れてくれた黄金童子でもあって。
好きになるとまではいかないですけど、その心の動きを知ることによって、胸のわだかまりは多少解消されました。
もうすこし会話してくれたら、もっと理解できて、もやっとしないんですけどね〜。松葉様の団扇を返してくれたことにはほっとしましたけど。
大旦那様
ついに大旦那様の思いのほとんどが語られましたね…。葵との出来事のあれこれも…。
大旦那様は此の期に及んでも、葵に何も背負わせようとはしない、一線を引いているような態度がどこかにありますね。それがなぜなのかは、反之助を追いかけていた羽多子さんを諭す言葉にも表れていました。
そんなふうに思いながらも、それを越えて近づくこともあった大旦那様もたしかにいて。
それってつまり、大旦那様はきっと…。
葵がもう覚えていないあの会話とそのときに自分が考えたことをたいせつに思い返しながら、大旦那様の中でたしかに育ったものはあったんだろうと、読み取れます。
しかし! タイミングが!!
葵の気持ちもよくわかるんですよね。連れて行かれてしまう大旦那様にいまそれを言っても、信じてもらえるかわからない、って。
だけど鍵を開けた先で見た大旦那様の諦めた眼差しも、葵と同じ気持ちから来たものに違いないのです。
…ふお〜〜〜、じれったい!!
次がいよいよ最終巻、どうやってこの疑心暗鬼をはらうのでしょうか! 葵、がんばれ!
…それにしても、羽多子さんの登場で葵が初めて嫉妬するくだりは実に良かったですね。にやにやしました。
最後に
ついに次で終わってしまう…、この大好きなかくりよが…。
しかしですよ、あとがきに「本編の最終巻となります」とありますよね。つまり…。もしかしたら、後日譚とか、スピンオフ…、あるんでしょう…??? お願いしますっっっ。
浅草鬼嫁シリーズ2冊ほど読んだんですけど、やはり主役でないためか、大旦那様がどこにいたのかわかっていない私です、よ…(一読しかしてないからですかね…?)。だからやっぱり、『かくりよ』の続編とかそういうのがほしいんです…っ。葵と大旦那様のセットで見たいし、現世より隠世の話が読みたいんです。
ついでにかくりよレシピ本もお願いしますっ。ちなみに。今回葵はたくさんお料理を作りますが、私が一番気に入ったのは『中華弁当』です。
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